2025年2月、欧州委員会とEuropean Board for Digital Services(EBDS)は、偽情報コードをデジタルサービス法(DSA)の共同規制スキームに正式統合した。その実施を支える独立調査として公開されたのが SIMODS(Structural Indicators for Monitoring Online Disinformation at Scale)の第一次報告「Measuring the State of Online Disinformation in Europe on Very Large Online Platforms」である。主導したのはフランスのファクトチェック団体 Science Feedback で、Newtral(スペイン)、Demagog SK(スロバキア)、Pravda(ポーランド)、Check First(フィンランド)、カタルーニャ公開大学(UOC)が共同で参加した。
対象はFacebook、Instagram、LinkedIn、TikTok、X(旧Twitter)、YouTubeの6大プラットフォームと、フランス・ポーランド・スロバキア・スペインの4か国。テーマは健康、気候、移民、国内政治、ロシア・ウクライナ戦争の五つ。調査は約260万件の投稿、累計240億ビューという規模に達し、各国×各プラットフォームごとに500件の標本を抽出、職業ファクトチェッカーが個別に注釈をつけて分類した。
報告書は、偽情報の実態を「流通量」「拡散の力学」「活動の生息地」「収益化」の四つの視点で示している。
流通量──TikTokとXに集中
最初に計測されたのは流通量である。標本は「信頼できる」「偽情報」「検証不能」に分類され、その比率から偽情報の割合が算出された。
結果は明確で、TikTokが最も高く約20%、さらに「問題的コンテンツ」(偽情報ナラティブの支持や攻撃的表現を含む)を加えると34%に達した。Facebookは13%、Xは11%、YouTubeとInstagramは8%、LinkedInは2%と低水準だった。
テーマ別に見ると、健康が43%と最多で、COVID-19を含む医療関連が依然として大きな割合を占める。次にロシア・ウクライナ関連が約25%、国内政治が15%、気候と移民がそれぞれ6%。国ごとの特徴も顕著で、フランスのTikTokでは偽情報率が40%を超える一方、スロバキアではFacebookとTikTokが18%前後で拮抗している。プラットフォームごとの差だけでなく、国やテーマごとの濃淡まで数字で可視化された。
拡散の優位──「誤情報プレミアム」
次に分析されたのは、偽情報を発信するアカウントの拡散力である。高信頼と低信頼のアカウントを分け、フォロワー数で正規化した「1,000フォロワーあたり投稿ごとのインタラクション数」を指標に比較した。
結果は一貫して、低信頼アカウントの方が高信頼を上回った。YouTubeでは約8倍、Facebookで約7倍、InstagramとXで5倍前後、TikTokでも2倍。具体的にFacebookを例に取れば、低信頼アカウントは平均で「1,000フォロワーあたり5.6インタラクション」を獲得するが、高信頼は0.76にとどまる。YouTubeでも低信頼6.6に対し高信頼0.67、Xでは9.9対2.6と差が広がる。
この「misinformation premium」と呼ばれる現象は、LinkedInを除くすべてのプラットフォームで確認された。つまり正確な情報よりも誤情報の方が拡散されやすいという構造が、数字で裏付けられたのである。
生息地──LinkedInでの不在
偽情報を流すアカウントはどの場に定着するのかも調べられた。結果は、低信頼アカウントはX、Facebook、TikTokに厚く存在する一方、LinkedInでは高信頼に比べて80%も少なく、Instagramでも存在感が薄い。
6つすべてのプラットフォームに同時展開している低信頼アカウントは7件にとどまり、高信頼は39件に上る。LinkedInやInstagramといった環境には低信頼が根付かず、拡散性や対立を煽る余地の大きい場に偏っている。こうした「生息地の差」は、各サービスの性質と結びついていることを示している。
収益化──YouTubeの例外
さらに調査は、偽情報を拡散するアカウントがどの程度収益を得ているかに踏み込んだ。
Facebookでは高信頼アカウントの60%が収益化しているのに対し、低信頼は20%。Googleのディスプレイ広告も同様に、高信頼70%、低信頼26%と差がある。これらは「正確な情報を提供する側に収益機会を与え、偽情報を抑制する」方向に機能しているといえる。
しかしYouTubeは異なる。高信頼78.5%に対し、低信頼も76.2%とほぼ同率で収益化されていた。基準は、登録者数1,000人以上、年間総視聴時間4,000時間以上、直近10本中3本以上に広告が付いていること。外部からこの条件を満たしていると確認された低信頼アカウントが多数存在し、収益化の仕組みから排除されていない。TikTokは収益モデルが公開されておらず、外部からの検証自体ができないと明記されている。
つまり、収益化の制御にはプラットフォーム間で大きな差があり、YouTubeは制度的に「抜け穴」を抱えている。
調査環境の制約
今回の調査は大規模かつ詳細だが、限界も存在する。完全なランダム標本を提供したのはLinkedInだけで、TikTokはAPI提供が遅れ、MetaとYouTubeは要請に応じず、Xは申請を拒否した。研究者アクセスを義務付けるDSA第40条にもかかわらず、実際には協力の度合いに大きな差がある。
報告書はこの問題を明示し、第三者が継続的に監査できるようにデータアクセスを制度的に保証する必要があると指摘している。つまり、この調査自体が「結果」だけでなく、「データアクセスの非対称性」という問題を同時に映し出している。
まとめ──可視化された構造
SIMODS第一次報告は、偽情報をめぐる環境を四つの指標で具体的に示した。
- 流通量ではTikTokとXが突出し、テーマでは健康が最多。
- 拡散の力学では「誤情報プレミアム」が数字で裏付けられた。
- 生息地の違いでは、低信頼はX・Facebook・TikTokに偏り、LinkedInでは根付かない。
- 収益化ではYouTubeが例外的に抑制されていない。
これらは単なる印象論ではなく、260万件を超える投稿と240億ビューのデータに基づく。次回調査は2026年初頭に予定されており、今回示された傾向が一時的なものか、それとも構造的に固定化しているのかを明らかにすることになる。
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