2025年、ブラジル・ベレンで開催されるCOP30の公式アジェンダ30項目の最後に、初めて「気候変動に関する情報の健全性(Information integrity in climate change matters)」が記された。これを牽引したのが、CAAD(Coalition Against Climate Disinformation)とブラジルの研究グループFALAである。彼らが発表した『Deny, Deceive, Delay: Demystified』(2025年11月)は、化石燃料産業とテクノロジー企業が一体となって形成してきた偽情報産業構造を、過去1世紀の史実とデジタル時代のデータを通して実証的に描き出す。
この報告書が示す最初の数字は鮮烈だ。世界人口の89%が「より多くの気候行動」を政府に求め、69%が毎月の所得の1%を拠出してもよいと回答している。しかし、人々は他者もそう思っているとは感じておらず、平均して「43%程度しか賛同していないだろう」と見積もっている。政策決定者でさえ、その数字をさらに低く38%と推定する。この「過小評価の構造」こそが、CAADが定義する気候偽情報の本質的効果である。人々は科学的事実だけでなく、「社会的合意が存在する」という事実までも疑わされている。
この認識の歪みを是正するために、ブラジルはUNとUNESCOと協力し、Global Initiative on Information Integrity on Climate Change(GIIICC)を創設した。報告書は、この動きを「偽情報による政策妨害を克服する国際的制度形成の始まり」と位置づける。
ブラジルにおける偽情報の構造と被害
報告書がまず取り上げるのは、COP30開催国ブラジルで観測された具体的事例群である。CAADと現地パートナーFALAは2020年以降、「780億ドル規模の“嘘のサプライチェーン”」を追跡してきた。その成果が「Observatory for Information Integrity(Oii)」プロジェクトとして可視化され、SNS上で流通する気候偽情報の実態を体系的に記録している。
教授Carlos Milani(リオデジャネイロ州立大学)は、「ブラジルの気候否定論は、極右政治家、反環境活動家、超保守的宗教指導者によって推進されている」と指摘する。だが、ブラジルではさらに暴力と恐怖が加わる。環境活動家Cristiana Losekannは、2025年に企業側が機関銃を持つ警備員を派遣して地域住民を威圧した事例を証言している。国際NGO Global Witnessの報告では、2024年に146人の環境・土地防衛活動家が殺害・失踪している。
虚偽情報の直接的な政策影響も記録されている。Oiiの分析では、環境規制を「国を衰退させる」とする虚偽投稿が1383回以上拡散した直後、議会が「Devastation Bill」を可決。これはブラジル軍政期以来最大の環境法制後退と呼ばれた。Oiiのスタッフは「偽情報が投票結果を左右したのを目撃したのは初めてだ」と証言している。
AI生成技術を用いた新たな手口も登場した。報告書が分析した動画では、存在しない都市ベレンの洪水映像が拡散された。架空の記者と市民が登場し、存在しない洪水を報じる“ニュース映像”がSNS上で拡散され、コメント欄には怒りと陰謀論が連鎖した。Oiiは「映像も人物も都市も存在しないが、怒りの感情だけが現実だった」と書く。MetaやYouTubeは取材に対し気候偽情報ポリシーを示さず、LinkedInは無回答、XとRedditは沈黙したままだった。
報告書はこの事例をもって、「プラットフォームの放置構造そのものが偽情報インフラになっている」と結論づけている。
気候行動妨害の百年史
CAADはこの章で、気候変動否定が単なる思想的現象ではなく、産業として設計された妨害行動であることを時系列に示す。
1856年、Eunice Newton FooteがCO₂の熱吸収を発見。1912年には石炭燃焼と気温上昇の関係が一般紙で報道されていた。1959年、物理学者Edward Tellerは米石油協会(API)の幹部会合で「CO₂増加は氷床を溶かし沿岸都市を水没させる」と警告。1968年にはAPIの内部文書が気候リスクを明記。1980年、スタンフォードのJohn Laurmannは「地球規模の破局が避けられない」と報告した。
しかし、石油業界は事業転換ではなく情報操作を選んだ。1998年のAPIメモは「科学者の意見が割れているように見せかける」報道戦略を指示。大学研究センターやシンクタンクへの資金提供、メディア設立を通じ、偽の論争構造を意図的に作り出した。2009年の“Climategate”は、その典型である。
Climategate:ハック・アンド・リークによる分断装置
COP15(コペンハーゲン)直前、気候科学者のメールがロシアのサーバー経由で流出し、右派ブログや保守系メディアが「データ捏造」と報じた。後に9件の独立調査で全員が潔白と認定されたが、世論の信頼は失われた。保守派の間で「科学者は信用できない」という政治的アイデンティティが形成され、気候否定は“文化戦争”の一部となった。報告書は「科学不信が他の社会的分断—LGBTQ、フェミニズム、人種平等、反ファシズム—と結合し、“民主主義全体を敵視する文化的連鎖”を形成した」とする。
Big Carbon × Big Tech:歪んだ鏡工場の誕生
2013年に「97%の科学者が気候変動の人為性に合意」とする論文が発表され、科学的争点は終結した。しかしその瞬間、情報戦の舞台はテレビからSNSへ移る。
フラッキングで富を得たWilks兄弟はPragerUに650万ドル、さらにDaily Wire設立に477万ドルを投じ、Jordan PetersonやBen Shapiroらを「文化戦争の顔」として売り出した。Koch兄弟はTucker CarlsonのDaily Callerの資金の40%を供給し、同系列のDaily Signalも後に独立メディア化する。これらのサイトは、Facebook上での優遇(Joel Kaplanによる干渉)によって拡散力を得た。
CAADの分析では、Facebook上の気候偽情報の69%がわずか10のメディアに集中している。その中にはBreitbart、Daily Wire、ロシア国営メディアが含まれる。SNSは「funhouse mirror factory(歪んだ鏡工場)」として機能し、少数派の声を多数派のように見せる。「世界の69%が行動を望む」という事実を「自分たちは孤立している」という錯覚に変える装置である。
さらに、報告書は文化戦争の連結構造を指摘する。米国の主要反トランス団体の約80%が化石燃料資金を受けている。気候否定と性差別的言説が同一の資金源とデジタル経路で増幅されている。CAADはこれを「気候偽情報=社会的分断産業」と定義している。
COPを標的とするデジタル妨害の常態化
CAADは2021年以降、毎年のCOP会議を対象に『Deny, Deceive, Delay』シリーズを発行してきた。
- Vol.1(COP26):「再エネは不安定」という“遅延の言説”を4種特定し、ネットワーク構造を解析。
- Vol.2(COP27):Twitterで#ClimateScamが拡散し、化石燃料産業がMetaに400万ドルの広告を投下。
- Vol.3(COP28):Facebook広告500万ドル超、ロシア国営メディアの操作、広告業界の資金流を追跡。
- COP29以降:Metaが研究用ツールCrowdTangleを閉鎖、XがAPIを有料化し、研究者が可視化できない構造が完成した。
CAADは「Big Techは、問題を是正する代わりに研究者の視界を奪うことで責任回避を行った」と批判する。この分析の積み重ねが、「情報健全性をCOPアジェンダに載せる」政策転換の直接的根拠となった。
情報汚染への制度的解決策
最終章では、国際的な規制と政策潮流を「新しい情報環境の構築」として整理している。
- EU:デジタルサービス法(DSA)がプラットフォームの透明性義務を強化。
- フランス:TotalEnergiesの“カーボンニュートラル”広告が裁判で虚偽認定。
- オランダ・ハーグ:化石燃料広告禁止条例が住民の多数支持を獲得。
- カナダ:ロシア資金による偽情報スタジオ摘発後、国民の86%がSNS誤情報対策を支持。
- 英国:Online Safety Act(2023)が有害コンテンツの削除責任を明文化。
- 日本:災害時虚偽情報拡散への法的対処を検討中。
- ブラジル:子ども保護法成立、最高裁がSNS運営者の法的責任を認定。
TechPolicyPressの追跡では、世界で79件のBig Tech規制法案が進行中。CAADは「化石燃料広告をタバコ広告と同様に扱うべき」と主張し、情報汚染を構造的に減らす方向性を明確にしている。
結論 「孤立を感じさせる」偽情報の心理構造
CAADが最も警鐘を鳴らすのは、偽情報の目的が変化している点である。かつては「地球温暖化は嘘だ」と信じさせることが目的だったが、いまは「行動したいと思っているのは自分だけだ」と思わせることが目的になっている。この「孤立の演出」が、行動を止め、民主的圧力を消す。報告書はこれを「false social reality(偽の社会的現実)」と定義する。
世界の89%が気候行動を望み、69%が資金を投じる意思を持つ。それにもかかわらず、可視化された世界では11%の少数派が声を支配する。Big TechとBig Carbonの結合が作り上げたこの“歪んだ鏡”を砕くことこそ、気候行動の前提であり、民主主義の防衛線でもある。CAADは最後にこう締めくくる。「解決策はファクトチェックではなく、現実の共同体を再構築することだ」と。


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